カンファレンス&セミナー

第11回 拡大版 慶應産業精神保健カンファレンス〜開催レポート

 

2019年12月4日、第11回 拡大版 慶應産業精神保健カンファレンスが開かれました。

 

【健康情報を活用したセルフマネジメントの実現に向けて、生涯型パーソナルヘルスレコードの構築とヘルシーキャンパス運動】

 

演 者
京都大学環境安全保健機構 健康管理部門/附属健康科学センター 教授・部門長 石見 拓先生

循環器内科医。専門は蘇生科学、予防医学、臨床疫学。長年にわたり心肺蘇生・AEDの効果検証と普及活動に従事。ヘルシーキャンパス運動やPHR(パーソナルヘルスレコード)普及推進協議会を立ち上げ、大学発の健康文化、データを活用した健康管理・増進に関わる発信に力を入れている。アウトドア好き、将来の夢はログビルダー、釣り人。

 
 

組織の垣根を軽やかに超えて連携を進められるmobilityと、明確にビジョンを据えられるgrounding の姿勢の両者を兼ね備えておられる点が印象深く、とても大きな学びを得る機会となりました。参加者にとっても、産学連携のありかたやその可能性ついて検討する貴重な機会となったことと思います。今後も、健康文化とは何かについて連携を深めながら様々な企画について検討していければと思います。

 

(佐渡充洋)

第44回 慶應産業精神保健カンファレンス〜開催レポート

 

2019年11月13日、第44回 慶應産業精神保健カンファレンスが開かれました。

 

講 演: PTSDの治療法について ~持続エクスポージャー療法(Prolonged Exposure Therapy:PE)のご紹介~

演 者: 慶應義塾大学ストレス研究センター 澁谷美穂子 臨床心理士

 
 

会の前半は、持続エクスポージャー療法の基礎となっている「情動処理理論」と具体的な治療の介入方法が紹介され、後半は実際の患者さんの症例提示が行われました。

 

情報処理理論では「PTSD が慢性化するのは、トラウマの想起刺激を極度に回避したために、トラウマ記憶が適切な処理を受けなかったことが原因である」としています。そのため、トラウマとなった場面を詳しく語る想像エクスポージャーと、日常の中で避けていた場面に直面してい現実エクスポージャーの両輪で曝露を行い、不適切な形でネガティブに固定化されたトラウマ記憶に関する捉え方のを修正していきます。後半の症例提示ではトラウマ記憶の中で現在もっとも苦痛を感じている部分を抜き出し、「その記憶に繰り返し触れて話す」という診療場面が共有されました。

 

「曝露により症状が悪化するのではないか、そうさせないためにも条件を付けて想起させ、安全性を担保しているのではないか」といった甘い推測はもろくも崩れ、リアルさをできる限り追求していくような治療介入の迫力に圧倒されました。そして、この治療法の高い効果と低い脱落率は、情動処理理論の正しさを示しているように感じられました。

 

(二宮朗)

第43回 慶應産業精神保健カンファレンス〜開催レポート

 

2019年8月28日、第43回 慶應産業精神保健カンファレンスが開かれました。

 

講 演:発達障害の診断update

演 者:慶應義塾大学精神神経科学教室 山縣文先生

 

「大人の発達障害」というフレーズとともに、成人以降に社会適応の問題から医療に繋がり、初めてASDやADHDと診断されるケースが増えています。当科でも昨年度から大人を対象とした専門外来を開設し、特に大学生や就職後数年以内の20代の当事者が多く通院されています。
この日は、それらの症例を提示いただきながら、どのように発達特性を抽出していくか、また職場の環境調整によりどのように適応されているかなどについて、山縣先生にお話しいただきました。
また、このほど外来でスタートした、障害理解を深めるための当事者とご家族の両者にご参加いただくプログラムの概要についてもご紹介いただきました。

第42回 慶應産業精神保健カンファレンス〜開催レポート

2019年6月26日、「第42回 慶應産業精神保健カンファレンス」が開かれました。

演題:建築デザインや環境の側面から認知症になっても暮らしやすい社会の実現を考える
演者:株式会社メディヴァ  木内大介氏、慶應義塾大学ストレス研究センター  佐渡充洋 医師


 

最初に佐渡が、英国スターリング大学「認知症サービス開発センター」における取り組み(認知症の人々の「生活上の困難さ」を建築デザインなどの工夫で補う取り組み)について、同センターを見学した際の体験を軸にお話しをさせていただきました。
 

次に、日本において「認知症に優しいデザイン」を導入した施設開発を進めておられる株式会社メディヴァの木内大介氏から、同社の取り組みと日本で取り入れる場合の留意点などについてご講演いただき、議論をさらに深めました。臨床業務に携わる参加者の方々とは、同じ診療科でも疾病の種類によって適応できるデザインが異なることや、暮らしやすさに大きな影響を及ぼす建築デザインの可能性について、闊達な議論を交わすことができました。
 

 

(佐渡充洋)

慶應義塾大学ストレス研究センターカンファレンス「医療の質と効率性を高めるための 英国国営医療(NHS)の取り組み」〜開催レポート

2019年4月16日、慶應義塾大学信濃町キャンパス総合医科学研究棟ラウンジにて、ストレス研究センターカンファレンスが開かれました。

『医療の質と効率性を高めるための英国国営医療(NHS)の取り組み』と題し、”Lord Carter review”におけるベンチマーク モデル病院プロジェクトの実際について、イギリスより来日中のMs. Emmi Poteliakhoffにご講演いただきました。

 

 

《Ms. Emmi Poteliakhoffの略歴》

Director of Model Hospital and Analytics, NHS Improvement

ケンブリッジ大学経済学部卒業後、英国保健省入省。2014年、首相官邸(キャメロン政権)で保健福祉担当の上級政策アドバイザーを務める。2015年より英国国営医療(NHS)で、医療の質、効率性の改善のための取り組み、Lord Carter reviewをdirectorとして主導。London School of Economics と Columbia Universityで Masters in Public administration 取得。

 

 

 

 

「Model Hospital」は、病院間のperformanceをベンチマークし、職員であれば誰でも閲覧可能な状態にし、主体的な改善を促す取り組みです。

お話を聞いていて2点ほど印象に残った点がありました。

1. まず踏み出す。
ベンチマークのアウトカムの中には、完全とは言えないアウトカムももちろん含まれるが、まずはそれを公開して、改善を図ろうとしている。

2. 「正しさ」より「使いやすさ」を優先
病院間のパフォーマンスを比較するので、パフォーマンスに影響を及ぼす因子(患者の年齢や重症度など)の調整などが必要ではあるが、あえてそうした因子の調整はあまり行わず、ダイレクトな数値でベンチマークを行う。その背景には、standardizedやadjustedされた数値は、結果の解釈が難しく、統計に明るくない一般の職員の直接的な行動変容に繋がりにくいという考えがあるようです。

こうしてみると、Model Hospitalの取り組みは、「データのためのデータ」ではなく、「行動変容のためのデータ」であることがわかります。

 

「行動変容」の観点から「データ」をどう構築するかという視点は、私自身不十分だった視点でもあり大いに学ぶところがありました。

 

 

(佐渡充洋)

 

第10回 拡大版慶應産業精神保健カンファレンス《「健康 well-being」な働き方》〜開催レポート

2018年8月30日、第10回産業精神保健カンファレンス拡大講演会が開催されました。

 

昨今の働き方改革において、医療の分野でも様々な課題が取りざたされ、ますます産業保健への注目が集まる中、今回は、ストレスや病気の軽減といった観点とは異なる、「幸福学」の視点から議論を深める会となりました。

この日のテーマとなった《「健康 well-being」な働き方》について、日本の幸福学の研究における第一人者、前野隆司教授を講師に招き、ご講演いただきました。当センターの三村將教授によるご挨拶、白波瀬丈一郎特任准教授による指定討論、および、佐渡充洋医師が加わっての「健康な働き方」をテーマとしたディスカッションも行われました。約100名の参加があった、当日の模様をお伝えします。

 

▼講演

前野隆司先生/慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授

▼指定討論

白波瀬丈一郎/慶應義塾大学 医学部 精神・神経科学教室/ストレス研究センター 特任准教授

▼司会

佐渡充洋/慶應義塾大学 医学部 精神・神経科学教室/ストレス研究センター 専任講師

 


 

講演『幸福学から捉えた働き方改革』前野隆司先生

※講演の内容を抜粋してご紹介します。

 

 

もともとはエンジニアとして活躍されていた前野先生。かつてはロボットの開発、AI(人口知能)の研究がご専門でした。

 

当初、人間の心を応用してロボットに埋め込もうとしていましたが、人間の心には、まだまだ解明されていないことが多いと知りました。なぜストレスを感じるのか、どうしたら幸せになれるのか……わかっていないのなら、人間の心のこと、そして「幸せ」について研究してみようと考えました。

 

前野先生が研究の対象としている「幸福学」は、予防医学、応用倫理学、ポジティブ心理学など、各分野を横断する重要な学問に位置付けられています。

 

心理学の分野で使われる「well-being」という言葉は、日本語に直訳すれば、「良き在り方」ですよね。体の良き在り方とはすなわち“健康”であり、心の良き在り方とは“幸せ”である。well-beingとは、幸せと健康と福祉を包み込む言葉だと言えるのではないでしょうか。

 

私は、「健康で幸せな働き方」において、このwell-beingがとても大切な要素になっていると考えています。

 

働き方改革が推進される日本では、経営・人事・健保のそれぞれの文脈で、イノベーション、ストレスチェック、リーダーシップ、ワークエンゲージメントが重要とされ、最近ではマインドフルネス、健康経営などの分野も注目されています。

 

働き方を見直す上で、それぞれの分野で取り組んでいる課題が統一的に扱われるとよいのではないでしょうか。そのために、それらを包括する「well-being経営」を提唱しています。

 

バブル崩壊後、日本の企業は徹底して無駄を排除し、効率を重視してきました。しかし、ただの雑談のように思える、人々のきめ細かな心の交流まで排除してしまって、果たしてそれが効率UPにつながるのか。人間の心は、無駄がなければ働ける、というものではないはずです。

 

働き方改革では、労働時間の短縮、すなわち「時短」を推し進めていますが、現実の仕事量に合わない、無理な時短を強いることに対して、前野先生は警鐘を鳴らしています。

 

時短を強要されることは、「やらされ感」につながります。やりがいを感じない仕事をすることで「幸福度」が下がることは明確です。

アメリカではすでに研究が進み、実証的なデータで解明されています。幸福度が高い社員は、そうでない社員と比べて、生産性が1.3倍、創造性は3倍となり、利他性も高い。また、欠勤率や離職率は低くなっているのです。

幸福度の高い状態で生き生きワクワク働くことによって、結果的に働き方改革の推進につながるのではないでしょうか。

 

 

前野先生は、過去の主観的幸福に関する研究結果を統合し、因子分析を行い、幸せの「メカニズム」の解明を図りました。

 

因子分析の結果、以下の4つの因子の上にあらゆる幸せがプロットできることがわかりました。

 

《幸せの4つの因子》

・自己実現と成長の「やってみよう因子」

・つながりと感謝の「ありがとう因子」

・前向きと楽観の「なんとかなる因子」

・独立と自分らしさの「ありのままに因子」

 

この4つの因子を満たそうと努めることで、個人の在り方や関係性の質が向上し、幸福な経営が実現できると考えています。

 

前野先生は、社員の幸福度に着目している企業の事例を示しながら、それぞれの会社の理念にあった幸せを見つけることを勧めます。

 

大事なのは、健康診断と同じように、幸せ(well-being)をきちんとした形で測ることです。幸せについて理解を深めた後に、「幸福度の計測→幸福度を高める活動→幸福度の計測」と繰り返し行うことで、well-beingの向上、引いては、well-being経営へとつながります。

幸福を分解して計測し、心身ともにいたって健康な人の幸福度を向上させることは、より広い概念として、社会全体のパフォーマンスを上げることにつながるのではないでしょうか。

 

学問としては、さらに深める余地のある幸福学。前野先生は今後、医学の分野とも連携した研究によって、幸せへの理解をさらに深め、多くの人のwell-being向上を目指したいと、講演をくくりました。

 

 

指定討論『「健康 well-being」の厚み』白波瀬丈一郎先生

白波瀬先生は、前野先生の講演を受けて、精神科医の立場から、「結果として幸せであるか」ということだけではなく、「幸せに至るまでのプロセス」が重要になる可能性に触れ、パネルディスカッションで議論したいポイントを整理しました。

 

 

人は、「幸福」を求めるプロセスで、自分に都合よく物事を捉え、自らが取り組むべき課題から目を逸らし、悩んだり落ち込んだりするのを回避することがあります。すなわち、「幸せフィルター」が働く、ということです。

昨今、安全配慮義務とか合理的配慮という言葉をよく耳にします。これらの考え方自体は大変重要だと考えます。ただ、言葉だけが一人歩きして、「他者から何かしてもらって当たり前」「あって当たり前」という意識を正当化することにつながるのは問題だと、私は問題を感じています。

例えば、周囲への配慮に欠く行動をする社員に注意をしたとき、「なぜいけないのか?」と言い返されると、会社のほうも「配慮して、 Yesと言うべきなのかもしれない」などと、そうした意識を追認する風潮がある気がします。

 

精神科医で「夜と霧」の作者のヴィクトール・フランクルが、講演録の中でインドの牧師タゴールの詩を引用して述べた言葉があります。

 

『幸せは、決して目標ではないし、目標であってもならないし、さらに目標であることもできません。それは結果にすぎないのです』

 

この言葉が伝えてくれているのは、幸せとは直接目指して手に入るものではなく、今ある環境下で、自らが行うべきこと(義務)に取り組む、その結果として得られるものだということです。換言すれば、「自らが行うべきこと(義務)に取り組む」というプロセスの重要性を述べていると思います。

また私は、このプロセスが実は幸せにつながっていることを明らかにする「一緒に付き合ってくれる人」が必要だとも考えています。なかなか幸福を実感できなかったりつらい思いしか自覚できない人に対峙して、「育て鍛える」役目を果たす人です。

 

この「育て鍛える」役目を果たすときに、前野先生の挙げられた幸せの4つの因子は、大切な役割を担ってくれるのではないでしょうか。

 

「それは“やってみよう因子”ですね」とか、「“ありがとう因子”にあたりますね」というように、本人がクリアにしていくべきことや、幸福に向かって進んでいることなどを明確にし、指標として活用できるからです。

 

幸福というのは特別なことではなくて、そこここにあって、それをどうやって見つけてみんなで実感していくのか、そうした「プロセス」と「プロセスを促進する人」について、ディスカッションしたいと思います。

 

パネルディスカッション――前野先生・白波瀬先生・佐渡先生

会の後半は、前野先生のお話をベースに、幸福に至る「プロセス」に焦点を絞ってディスカッションが行われました。また、参加者からの質問を交えながらの議論も展開されました。

 

※以下、敬称略

前野:白波瀬先生のお話で出たフランクルの言葉、興味深くお聞きしました。幸せを目指そうとしても、何をどうすればいいのかはわかりませんからね。私は、幸せを「努力」や「感謝」などの要素に分解して捉えることが大事だと思っています。成長を目指すことや利他的であることが幸せにつながる、ということです。また、なんとかなる因子が含む「楽観」は、 “いい加減”とか“回避”という意味ではなく、非常に強い意思や、自己を信じる心を示しています。

 

白波瀬:確かにそうですね。幸せとは、楽をするとか、手を抜くということではなく、いかに一生懸命になれるか、という文脈で区別することがとても大事なのでしょうね。

 

佐渡:マインドフルネスでも、幸福や症状の改善、すなわち、「結果」を求めていいかという議論がよくなされます。しかし、少なくとも最初は、幸福になりたい、病気を治したいという結果を求めてもいいと私は思っています。大事なことは、過程のなかで、それにしがみついていることがむしろ幸福を阻害している、目の前のことに丁寧に注意を向けることが本当の意味での幸せに繋がる、という気づきが起きることです。そういった気づきを得た人が、ガラッと変わる瞬間を多く見てきました。

 

 

質問者:様々な幸福経営を実践する会社の事例がありましたが、一社員が訴えてもなかなか通らない難しさを感じています…。

 

前野:確かに、トップが変わらなければ、なかなか幸せな会社にはなれないかもしれませんね。まずは一つの部署など、小さな組織で試してみるのはどうでしょう。その部署が幸せになれば成果も出てきますし、それを見ていた周囲にも変化が起きるかもしれませんよね。幸せは移りますから。

 

質問者:私は精神科医ですが、精神疾患の方のなかには、ありがとう因子のような「つながり」や「感謝」を感じることが困難に思う人がいるのですが、その点へのご意見をお聞かせください。

 

白波瀬:ありがとう因子というのは、もしかすると「信頼の因子」という言い方に置き換えられるかもしれません。診療の場面での患者さんと医師との関係でいうと、医師に対して、安心できる、信頼できると思えるような関係性を作っていくことが、患者さんの「ありがとう因子」を高めることにつながるのでしょうし、それが精神科医の役割だと思います。既存の価値観、考え方にとらわれるのではなく、「こういう信頼関係の作り方もいいですね」など、我々がどのくらいオプションを持てるかが、幸福を見つけやすくするアプローチになると考えています。

 

 

質問者:それぞれの組織の“メンタルヘルス”と“カルチャー”のせめぎ合いをどうしていけばよいとお考えか、コメントをいただきたいです。

 

前野:今日私がここに呼んでいただいた意味は、医療、経営、エンジニアリング、そして心理学といった別の分野が手を取り合うという、第一歩の会だと思っています。それぞれの分野で課題がありますが、うまく連携したら、全体的な問題の解決につながるのではないでしょうか。

 

白波瀬:アプローチの違う人たちで両方から挟み込みで実践を示せると、もう一つ変わっていくのでしょうね。

 

 

佐渡:前野先生が語られる“ポジティブサイコロジー”と、ネガティブな感情を扱う精神医学とに共通点があるのか、正直不安なところがありました。しかし、今日の議論で、幸福学の領域で使われる概念も、その意図するところや文脈をきちんと理解してみると、精神医学の領域でしばしば語られる概念ときちんと通じていることを改めて実感しました。前野先生には、今までとは少し違った視点を吹き込んでいただき、それをもとに議論できました。本日は大変貴重な機会となりましたこと、改めて感謝申し上げます。

 

(取材:後藤菜穂)

マインドフルネス国際学会《International conference on Mindfulness》に参加して

2018年7月11日〜13日、マインドフルネスの国際学会《International conference on Mindfulness》が、オランダのアムステルダムで開催されました。世界中から1,000人近い参加者が集い、臨床適用、効果メカニズム、社会、哲学、および仏教心理学など、さまざまな側面から多くの議論が活発に行われていました。

 

その中から、ポスター発表と2つの基調講演について報告いたします。

 

 

 

 

《ポスターセッション》

慶應義塾大学からは、不安障害の無作為比較対照試験の結果、ウェルビーイングのパイロット研究の結果、おなじくウェルビーイングの無作為比較対照試験のプロトコールの3つの演題を発表いたしました。このうち、不安障害の発表はBest presentation awardにノミネートされ、プレゼンテーションの機会もいただきました。残念ながら受賞は逃しましたが、他国の研究の現状や進捗を把握できる、貴重な機会となりました。

 

 

 

《基調講演 Mindfulness: keeping our balance》

-オクスフォード大学名誉教授 マーク・ウィリアムス

学会最終日には、オクスフォード大学の名誉教授、マーク・ウィリアムス氏が、“Mindfulness: keeping our balance”のタイトルで講演を行いました。講演の内容は、「マインドフルネス認知療法開発の経緯」から「マルチタスクがいかに脳に負担をかけるか」まで、幅広い内容を簡単なエクササイズも交えながら発表しました。

 

ここでは、その講演を振り返りながら、筆者の感想をつづることにします。

 

 

 

「建築家は、自身が設計したショッピングモールのオープン初日に何を観察するのか」という問いかけから、ウィリアム氏の話は始まりました。彼によると、建築家が見るのは、壁が落ちていないか、階段に不具合がないかといった建物の「構造」ではありません。お客がスムースに行き来しているか、吹き抜けに掲げられた掲示板がきちんとお客に必要な情報を伝えられているか(掲示板がお客に情報を届ける役目を果たしているか?)、お客が必要な場所にたどり着き、求めるものを手に入れられているかといった「機能」なのだそうです。つまり建築家は、設計した建物という構造が、それを通して得られるはずの機能をきちんと果たしているかどうかを確認しているのです。このことから「構造とは、本来の目的が機能することを可能にするためのフォーム(形)である」ということ、また「機能の観点から綿密に練り上げられたものである」ということがわかります。

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、マインドフルネス認知療法やマインドフルネスストレス低減法にはカリキュラムがあり、どのクラスで何を行うかが明確に規定されています。ですから、これらのプログラムにはしっかりとした「構造」があると言えます。そしてカリキュラムは、プログラムが意図する明確な「機能」をもとに作り上げられたものでもあります。このことから、カリキュラムの意図をしっかりと理解した上でその構造を守ることが、プログラムのもつ機能を最大限発揮することに繋がります。

 

しかし、その構造を守っていれば、いつでも意図する機能を果たせるかというと、必ずしもそうではありません。その例としてウィリアム氏は、2つの事例を挙げました。

 

一つは、「パニック障害の患者さんが、呼吸に注意を向けた瞑想をしている時に、苦しくなることがある」という事例です。パニック障害の方は、突然動悸が激しくなったり、過呼吸を起こしたりして不安がひどくなることがあります。こうした患者さんは、呼吸や胸に注意を向けると、場合によっては過去の体験が呼び起こされてかえって不安が高まってしまいます。そうした時に、呼吸に注意を向けることの本質が「いつでも戻ってこられる錨(いかり)のような役割」であることを理解できていれば、何もその場所を呼吸に限定する必要がないことがわかります。そしてそのまま呼吸に注意を向け続けてもらうのではなく、手や足など体の別の場所に注意を向けるという、構造の修正も可能になることを伝えてくれました。

 

また二つ目の事例として、マインドフルネス出産育児プログラムを挙げていました。このプログラムは、妊娠中や出産間もない親を対象にしたマインドフルネスのプログラムです。当初は、こうした両親に対してマインドフルネスストレス低減法が実施されていましたが、途中で参加を止めてしてしまう参加者が多くうまくいかなかったようです。そこで、プログラムを妊娠、出産、子育てなどにより焦点を当てたものに修正したところ、うまくいくようになったとのことでした。マインドフルネス出産育児プログラムはマインドフルネスストレス低減法の構造を「修正する」ことで機能が発揮されるようになったよい事例であるとのことでした。

 

このような例を踏まえて彼は、「マインドフルネスストレス低減法やマインドフルネス認知療法の構造を“修正”して実施することは可能か?と聞かれれば」と述べたあと、少し間をとり、「『それは可能だ』と答えるだろう」と言葉を選ぶように語りました。と同時に「しかし、それはマインドフルネスストレス低減法やマインドフルネス認知療法のDNA(本質)が何であるかを、十分に理解していることが前提だ」とのコメントを強調することも忘れませんでした。

 

これは、構造の修正は、あくまでマインドフルネスの本質を機能させるために行うべきであり、本質を理解しないままでの修正は、本質を毀損しかねない、ということを意味するものと筆者は考えました。

 

プログラムの構造を「守ること」、臨機応変に「修正すること」。どちらも大事な対応です。しかし、そもそも「構造」とはいかなるもので、またこれを修正するということが何を意味するのか、どちらの方法を選択するにしても、そうした問いを自問し続けることの重要性を、改めて指摘してくれる内容でした。(文・佐渡充洋)

 

 

 

《基調講演 Benevolent Frankenstein Enters the Therapeutic Arena》

-トロント大学教授 ジンデル・シーガル

2日目にはマインドフルネス認知療法の開発者の1人、ジンデル・シーガル氏の講演がありました。

 

Benevolent Frankenstein Enters the Therapeutic Arena(慈悲深いフランケンシュタインが治療の場に入り込む)というタイトルからは、講演のテーマが想像できず、はじめはとまどいました。結局のところ、このタイトルは今までの医療にとって異質なものである「瞑想」が持ち込まれたことの比喩だったようです。シーガル氏は開発経緯について詳細に話すとともに、メインのテーマである「どのような“要因”がマインドフルネスの効果をもたらしているのか」についてお話されました。以下、シーガル氏の発表のなかで、特に興味深かった内容に触れることにします。

 

 

シーガル氏は、彼自身が研究に関わった、うつ病の再発予防の介入としてグループ認知行動療法とマインドフルネス認知療法を直接比較したRCT研究を紹介しました。そのなかで、グループ認知療法群とマインドフルネス認知療法群の参加者の脱中心化に着目した分析を行なっています。その結果、脱中心化のスコアが大きく改善した群と、改善しなかった/あまり改善しなかった群の2群に分けると、脱中心化のスコアの改善度合いの高い方がうつ病再発率は低く、両群間で再発率に大きな差があることを見出しました。

 

この研究においてシーガル氏は、参加者がホームワークに取り組んだ時間数も集計しています。結果は、両群ともにほとんど練習を行わない群が最も多く、多くの参加者が期待するほどの練習を行っていないことが明らかとなりました。また同時に、「練習量・脱中心化の改善度合い・再発率」の3者の関係について、「練習量」と「脱中心化の改善度合い」、「脱中心化の改善度合い」と「再発率」との間には有意な相関があるものの、「練習量」と「再発率」との間には、有意な相関が得られなかったことを提示しました。つまりシーガル氏は、うつ病の再発を防ぐためには、ただやみくもに練習すればよいのではなく、いかに脱中心化を促す練習を行うかが重要であることを示したのです。

 

そして、そのためのヒントとなるよう、筋力トレーニングによる介入の論文を提示しました。その論文では筋力トレーニングによって有意にうつ症状は改善する一方で、練習量や筋力の向上との間には有意な関係性が認められませんでした。ここからシーガル氏はむしろ適度な量を日々継続して行うことが重要ではないかという仮説を導きます。そして同様に、マインドフルネスの練習も量の問題ではなく、適切な形で継続的に行うことが重要なのではないかという仮説を、彼は提示しました。

 

最近ではマインドフルネス認知療法の作用機序に関する関心が高まり、様々な論文が発表されています。そのなかでも、シーガル氏が示した仮説は今後マインドフルネス認知療法のプログラムに活かしていくことが現実的に期待される実行性のあるものであり、非常に興味深いものでした。またマインドフルネス認知療法の開発者が、昨今のマインドフルネスブームに満足することなく、飽くなき探求心を持ち、マインドフルネス認知療法のプログラムをより有効なものにしていこうとしていた姿勢に非常に刺激を受けた講演でした。(文・二宮朗)

第39回 慶應産業精神保健カンファレンスを終えて

2018年6月13日、第39回慶應産業精神保健カンファレンスが開催されました。

 

当大学医学部精神・神経科学教室大学院生の小杉哲平が、「マインドフルネスとウェルビーイング」というタイトルで講演をさせて頂きましたので、その内容を簡単にご報告いたします。

 

講演ではまず、マインドフルネスの歴史や効果機序に触れた後、ウェルビーイングの概念の説明をしました。ウェルビーイングは幸福感をいくつかの側面から多面的に表す概念であり、主に①感情、②人生満足度、③ユウダイモニアという3つの主要な側面があることを述べました。

 

 

ウェルビーイングを研究対象とした学問としてポジティブ心理学という領域があり、その知見からウェルビーイングが高いと寿命や健康にも好影響があること、介入によりウェルビーイングは高めることができることを示しました。

そして、マインドフルネス的な介入もウェルビーイングを高める一つの方法であり、その効果機序について過去の研究をもとに私見を述べ、現在私達が行っているマインドフルネスのウェルビーイングへの効果を探索した研究を紹介しました。

 

その後のフロアーの先生方との質疑応答では、それぞれの先生方の臨床経験、研究での実践に基づいた貴重なコメントやご質問を頂き、活発な議論がなされ、盛況のうちにカンファレンスを終えることができました。

 

(小杉 哲平)

 

第38回 慶應産業精神保健カンファレンスを終えて

2018年1月17日、第38回慶應産業精神保健カンファレンスが開催されました。

元マッキンゼーパートナーで、株式会社メディヴァ代表取締役の大石佳能子さんをお招きし、
経営者に伝わる健康経営 ーどうやって経営者をその気にさせるかー」のタイトルで、ご講演をいただきました。

 

医療者と経営者のshare of mindの違いから、なぜコミュニケーションギャップが生まれるか、
経営者にメッセージを届けるには どのような手法がありうるかといった視点から、
幅広い内容でご講演いただきました。

講演終了後も活発な質疑が行われ有意義な時間となりました。

第9回 産業精神保健カンファレンス拡大講演会を終えて

201796日に開催しました、第9回慶應産業精神保健カンファレンス拡大講演会では、

「“悩める人”と泥仕合にならないための工夫」というタイトルで当センターの白波瀬丈一郎副センター長が講演を行いました。

 

“悩める人”との間で展開しやすい、混乱した対人関係「泥仕合」を精神医学的知見に基づいて明らかにしました。続いて、泥仕合にならないための工夫を「己を知る:マインドフルネス」、「相手を知る:人と行為を区別する」、「支援プログラムの可視化」というキーワードで解説しました。

当日は130名の方に参加いただきました。